私の性は誰が決める?-セックス、 ジェンダー 、セクシュアリティーの話-
簡単なクイズをしましょう!
答えを理由とともに考えてみてください。
「ある医師は太郎くんのことを弟だと言っていますが、太郎くんは兄がいないと言っています。嘘をついているは誰でしょう?」
A. 医師
B. 太郎くん
C. 医師と太郎くん
D. 誰も嘘をついていない
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正解は、、、、、、、
「D. 誰も嘘をついていない」。
理由は「医師は女性であり、彼女にとって太郎くんは弟で、太郎くんにとって彼女は姉にあたる」からです。
答えが分からなかった人の中で「医師=男性」と想像した人は多いのではないでしょうか。
このクイズは、いかに私たちが無意識に性別と職業を結びつけて考えているかを気づかせてくれます。
このように性に関する先入観は、無意識にも私たちの社会に存在しています。
ここ数年日本でも、性に関する議論が活発になってきています。
例年「赤=女性・白=男性」と表現されていた紅白歌合戦のポスターが、2021年度は多様性がテーマになったことで「赤色から白色へのグラデーション」のデザインに変更されるなど、日本でもジェンダーやセクシュアリティなどに対する意識の高まりが見られました。
そこで今回は、混乱しやすい「セックス、ジェンダー、セクシュアリティの違い」について紹介していきます。
一言でいうと
- セックスとは男女の生物学的属性
- ジェンダーとは社会で共有される男女の違い
- セクシュアリティーとは他人に対する性的感情
のことを指します。
これら3つの違いがこの説明ではよくわからなかった人にとっても、もう知っている人にとっても、これらは「自分とはどういう人間なのか」に繋がる大切な考えです。
更にこれらは、今まで「男性らしく」や「女性らしく」という言葉に苦しめられたことがある人も、「なぜそういう考えがあるのか」や「なぜ私はモヤモヤしているんだろう」といった謎を紐解く重要な鍵になります。
では、セックス、ジェンダー、セクシュアリティとはどういう意味なのでしょう?
一つ一つみていきましょう!
セックスvs ジェンダー vs セクシュアリティー
セックス (Sex)
💡 「男性と女性の生物学的属性のこと」
セックスとは「オス/ メス」で分別されるような身体的特徴や生理的特徴(生殖器官・染色体・ホルモンなど)の違いを指します。
セックスは通常、出生時に割り当てられます。
基本的にセックスは、女性、男性またはインターセックスに分類されますが、性別を構成する生物学的属性や、それらの属性の表現方法には違いがあります。
例えば、
- 「女性(Female)」は、XX染色体を持つ女性の性器と生殖器を持つ人
- 「男性(Male)」は、XY染色体を持つ男性の性器と生殖器官を持つ人
- 「インターセックス (Intersex)」は、XXY染色体などを持っていたり、男性/女性のカテゴリーに当てはまらない性器や内臓を持っている人
などです。
間違えてはいけないのが、インターセックス は「男性や女性以外の性」や「中間の性」を示す言葉ではない、ということです。
インターセックスとは、「身体的特徴が一般的に『女性/男性』とされる状態に当てはまらないこと」を意味する言葉で、その人のジェンダーアイデンティティとは全く関係がありません。
(インターセックスについて興味がある人はEmily Quinn『The way we think about biological sex is wrong』(日本語字幕あり)をぜひチェックしてみてください。)
では、ジェンダーアイデンティティとは何を表す言葉なのでしょう?
それを理解するためには「ジェンダー」という言葉が鍵になってきます**。
ジェンダー (Gender)
💡「 文化的・社会的に構築された男性と女性を象徴するもの」
フランスの哲学者のシモーヌ・ド・ボーヴォワールは『第二の性』の中でジェンダーを
”One is not born, but rather becomes, a woman” 人は女性に「なる」のであって、生まれながらにしてそうなのではない
と表現しました。
つまりシモーヌ・ド・ボーヴォワールは、「常に文化的な強制力の下でジェンダーは存在する」ということを明らかにしています。
これがどういうことなのか、もう少し詳しく見ていきましょう。
簡単に言うとジェンダーとは、社会が期待する「女性らしさ」や「男性らしさ」などで表現される規範や行動のことです。
私たちは家族や学校、メディアなど、人との交流の中でジェンダーを学んでいます。
「男の子なんだから泣いちゃダメ」
「女の子は家事を手伝いなさい」
これらはすべては、社会で共有するセックス(生物学的性別)に依存した人々への期待を表しています。
男性はよく「感情を表さないこと」や「身体的に強いこと」、「一家の大黒柱であること」、「競争力があること」、「身長が高いこと」などが求められています。
女性の場合は、「家庭的であること」や「サポート役であること」、「細身であること」、「静かであること」、「育児をすること」などが望ましいとされています。
このような言葉をかけられたり期待を持たれることで、自分とのギャップに苦しみ、自分という存在を否定されたような経験をした人は多いのではないでしょうか。
しかし、「男性らしい」や「女性らしい」などといった非常に制限されたカテゴリーでは、人々の個性や価値観は収まりきりません。
ここで覚えておいて欲しいのが、ジェンダーは、異なる文化圏や時代によって流動的に変化していくということです。
なぜなら、ジェンダーとは、人との交流の中でしか存在しない考えだからです。
つまり、このようなジェンダー的役割 (セックスを基にした一般的に”望ましい”とされる役割や行動)も、人々の認識によって変化していきます。
あなたがもし一般的に「男性らしい」や「女性らしい」とされる枠組みに入らなくても、それはあなたが「男性ではない」や「女性ではない」という証明にはなりません。
あなたが「自分らしく」いることの方が大切だということを忘れないでください。
また加えて重要なのが、ジェンダーは必ずしもセックス(生物学的性別)によって定義されるものではないということです。
ポイントとなるのは、「ジェンダーアイデンティティー(性自認)」
💡 「自分が自分のジェンダーをどのように理解するかということ」
という考え方です。
人のジェンダーとセックスは一致することもあれば、一致しないこともあります。
例えば、生まれたときのセックスとジェンダーが一致するとき、その人は「シスジェンダー〇〇」と表現されます。
シス(Cis)とは「同じ側にいる」を意味する言葉で、生まれたとき最初に識別されたセックスと同じ側にとどまる、ということです。
女性の身体で生まれ「自分は女性だ」と性自認する場合、その人はシスジェンダー女性となります。
それに対して、生まれたときのセックスとジェンダーが一致しない人は「トランスジェンダー〇〇」と表現されます。
トランス(Trans)とは「向こう側にいる」を意味する言葉で、生まれたとき最初に識別されたセックスを超えて性自認をする、ということです。
女性の身体で生まれ、「自分は男性だ」と性自認する場合、その人はトランスジェンダー男性となります。
その他にも、生物学的な性別が明確に決定できない人、または男性でも女性でもないことを認識している人は不確定を意味する「Indeterminate」や「Unspecified」のいずれかを自認することができます。
男性や女性などのジェンダーに縛られない人は、「ノンバイナリー」や「ジェンダークィア」という言葉で括られることが多いですが、実際にジェンダーアイデンティティの範囲は人の数だけ広がっています。
ジェンダーとは私たちにとって非常に個人的なものであると同時に、時間と共に変化する可能性のある流動的なものです。
幼少期に自分のジェンダーアイデンティティを理解する人もいれば、成人してから認識する人もいます。
大切なのは、「あなたがあなた自身をどのように理解するか」です。
自分にとっての正解を自分のペースで見つけていきましょう。
セクシュアリティ (Sexuality)
💡 「他の人に対するあなたの性的感情、思考、魅力、行動のこと」
あなたのセクシュアリティ(性的指向)は、基本的に、あなたが惹かれる人に対して抱く感情を表す言葉です。
個人自身のセクシュアリティへの理解はその人の価値観や信念、身体、欲求、人間関係、ジェンダー、これらすべてに対する考えや感情など、非常に多くの異なる要素で構成されるため、それは一人一人に特別で特有なものとなります。
言い換えれば、セクシュアリティとは自己定義されたものであり、他者が「正しい」や「間違っている」ということではなく、「自分にとって何が正しいか」ということ。
すべての人が自分にとって意味のある方法で自身のセクシュアリティを理解し、表現する権利があります。
男性に惹かれるのか、女性に惹かれるのか、両方に惹かれるのか、どちらにも惹かれないのか。
どれが正しいということはないので、あなたが正しいと信じるあなたのセクシュアリティを尊重しましょう!
日本で「自分らしく」生きていくということ
2021年に実施された内閣府男女共同参画局の調査によると、「男性は仕事をして家計を支えるべきだ」という項目に対して賛成を示した割合は、男性の中で約50%、女性の中では約47% を記録しています。
「家事・育児は女性がするべきだ」という項目に対して賛成を示した人は、男性で約30%、女性で約23% です。
また、2020年度の日本労働組合総連合の調査では、全体の66.3%が「『親が単身赴任中』というと、父親を想像する」と回答しました。
このように、異性に対する期待だけでなく、男性も女性も無意識のうちにジェンダー的役割を強く意識していることが明らかになっています。
出典:日本労働組合総連合. アンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み、偏見)診断. p5.
日本労働組合総連合の調査では、「LGBTQ+の人は一部の職業に偏っていて、 普通の職場にはいないと思う」と「LGBTQ+であると聞くと、戸惑いを感じてしまう」という2つの項目で男性が女性の2倍以上無意識に偏見を抱いてしまうことがわかりました。
しかしこれは本質的に男性が女性よりも偏見を抱きやすいということではありません。
1995年に発表されたスタンフォード大学のレポートによると、
LGBTQ+への偏見は、男性が「男性らしく」いることが望ましいとされている社会で権力、権威の問題に対する不安や、女性らしさや受動性に対する不安と関連していることが指摘されています。
より多くの人が「自分らしく」、心地の良い環境で自身のジェンダーやセクシュアリティを表現できるためには、まず、ジェンダーやセクシュアリティに関する迷信を覆す必要があります。
「ストレート」と呼ばれる「シスジェンダーであり、かつ異性を愛するセクシュアリティ」の人たちに対して電通が実施した調査では、約29%の人がLGBTQ+コミュニティに対して**「課題意識が強く積極的にサポートする」意思がある**ことが分かっています。
しかし、それを上回る約34%の人が「他人事」と捉えているのも事実です。
LGBT+擁護団体Stonewallの創設者の一人であるリサ・パワーは
ストレートの助けを借りないLGBT+のコミュニティの戦いは無駄です
と述べています
「自分に関係ない」と思っていても、話を聞き、オープンマインドであることは、LGBTQ+コミュニティに力を与えます。
ジェンダーアイデンティティやセクシュアリティに関係なく、すべての人が尊厳と敬意をもって扱われる日へ向け、力を合わして前進しましょう。
今回出てきた用語をおさらいすると、
セックス (Sex)
💡 「男性と女性の生物学的属性のこと」
ジェンダー (Gender)
💡 「文化的・社会的に構築された男性と女性を象徴するもの」
「ジェンダーアイデンティティー(性自認)」
💡 「自分が自分のジェンダーをどのように理解するかということ」
セクシュアリティ (Sexuality)
💡 「他の人に対するあなたの性的感情、思考、魅力、行動のこと」
です。
記事を読む前よりも、違いを言語化できるのではないでしょうか?
皆さんの性に関する「どうして?」という疑問や悩みは、人の数だけあり、そのどれもがユニークなものです。
この記事が、疑問や悩みを解決する糸口になることを願っています。
1 コメント
こんにちは。
大変興味深く、読ませてもらいました。文章、グラフ等も有効に使われてわかりやすかったです。
私は助産師で学校での性教育に関わっています。
性のグラデーションについて、セクシュアリティのお話もしています。
「性のあり方」というなんとも抽象的な言葉には常々迷いがあり、でもどんな言葉を使えばよいのか
悩んでいました。セクシュアリティは、体の性、こころの性、好きになる性、表現する性にわけられて・・・という感じでひとつひとつ話していました。
LGBTからSOGIEへともはなすときもあります。
ここではセクシュアリティを他人との関係性に主眼をおいたとらえ方をされています。
そこが、新鮮でした。
小学校はもちろんのこと、中学高校でもセクシュアリティについてはなかなか踏み込んだ授業がされていない現状を少しでも変えていきたいと思っています。
そのためには自分自身が、新しい世界に踏み込んでいく勇気と体力をもちたいと思っています。
大変参考になりました。
ありがとうございました。