世界の10人に1人の子どもは働いている- 児童労働に従事する子どもたち-
「世界の10人に1人」
この言葉を見たとき皆さんは何を想像するでしょうか。
この数字は、世界中で学校も行けずに働いている子どもの数を表しています。
世界では現在、約1億6,000万人の子どもたちが児童労働の犠牲になっていて、これは日本の総人口よりも多く、日本全土が児童労働者で埋め尽くされる程の数字です。
児童労働の問題はずっと昔から存在しています。
実際に、「学校の授業で」、「ユニセフのCMで」、「海外旅行に行って」など、日本にいる私たちも「どこかの国の子どもたち」が働いていることを何となく知っています
意外にも児童労働の問題は、日本の私たちにも身近で、私たちの行動は「どこかの国の子どもたち」にも影響しています。
しかしこれは別の言い方をすれば、私たちの行動は”世界の10人に1人”の子どもたちを救うことができる力を持っているという意味にもなります。
そこで今回は、これまで”何となく知っていた”「児童労働」の理解を深めてみましょう。
「児童労働がどういう意味で、何が原因で、どうして問題なのか」
それを理解することで、「私たちが持っている力」が見えてきます。
児童労働とは
国際労働機関(ILO)の定義によると児童労働とは
「15歳未満で就労する子どもたちの、子どもの幼さ、可能性、尊厳を奪い、身体的・精神的な発達に害を及ぼす労働」
のことを指します。
これは言い換えると、児童労働によって「自らの意思で自由に学校に通ったり、他の子どもがするような経験ができていない子どもたちがいる」ということです。
児童労働に従事する子どものうち48%が5〜11歳と小学校6年生にも満たない幼い子どもたち。
そんな幼い彼らの肩には、重すぎる責任があります。
児童労働は子どもの可能性と幸福を奪ってしまうのです。
では「働くすべての子ども」は児童労働者にあたるのでしょうか?
そうではありません。
例えば、「15歳未満の子どもであっても、学校に行ながら放課後や休日に親の家業の手伝いとして働いたり、アルバイトをすること」は「子どもの仕事」となり、「児童労働」には当てはまらないのです。
児童労働に当てはまらない「働く子ども」は「child work 子供の仕事」と呼ばれ区別されています。
以下の質問をすることで「児童労働」と「子供の仕事」の区別ができます。
- 労働が教育の機会を妨げていないか
- その労働が子供の身体的・精神的な成長に悪影響を及ぼしていないか
- 有害で危険な労働環境で働いていないか
- 子どもたちに不当な扱いをし、子どもの幼さを利用することで利益を得ていないか
また児童労働と言ってもその形態はさまざまであり、「最悪の形態の児童労働」や「危険な児童労働」、「強制的な児童労働」などがあります。
児童労働者のほぼ半数(7,300万人)は「危険な児童労働」に従事しており、その4分の1以上は12歳未満の子ども(1,900万人)が行っています。
2022年末には新型コロナウイルスの影響で、新たに900万人の子どもたちが児童労働に追い込まれる危険性があり、十分な社会的保証が受けられない場合、この数は4,600万人に上るとまで言われています。
ではこれらの子どもたちはなぜ児童労働に従事しているのでしょうか?
ここでは主に5つの原因、「貧困」、「紛争や政治的不安定」、「危機的状況」、「一般的な認識や地域の慣習・伝統」、「市場からの需要」を挙げています。
児童労働の原因
子どもが児童労働に直面する理由は、子どもによって複雑なものになります。
「貧困」
貧困は児童労働を引き起こす最も重要な根本的原因です。生活の基本的なニーズ(衣食住の確保や健康管理など)を満たすために児童労働に従事する子どもたちは働いています。貧困状況にある家庭は、子どもたちから得られる収入に依存しています。そのために、彼らは生きるため働かなければない状況に追い込まれています。
「紛争や政治的不安定」
内戦や政府が適切に機能しなくなったことによって、子どもたちの生活が一変し普段の生活を捨てざるを得なくなることがあります。経済的ショックや社会的支援・教育・基本的サービスの崩壊などにより子どもたちは児童労働に巻き込まれる可能性が高くなります。
「危機的状況」
干ばつなどの自然災害や飢饉などが何度も繰り返し起こることによって、親だけでは家計を支えることができなくなり、子どもは働かざるをえなくなります。また、両親のどちらかが亡くなった場合など、家族が日々生き残るため子どもたちは危険な仕事に就かざるをえない状況になります。
「一般的な認識や地域の習慣・伝統」
一部の地域では「子どもは働くことで成長し、将来のためになる」という考え方があります。そのような地域では、児童労働が子どもに及ぼすさまざまな影響を認識していない場合があります。
また伝統や慣習によってある地域では、男児は幼い頃から家計を支える役割が期待されたり、女児は幼いうちから学校をやめて家事に従事させたり性労働に売り込まれる可能性が高いことが指摘されています。
このような地域の慣習や伝統は深く根付いているため、親も子ども自身もそれが子どものためにならず、違法であることも認識していないことがあります。
「市場からの需要」
子どもは大人よりも安い賃金で雇うことができ、また従順であるため悪徳な大人や企業に利用されることが多いです。そのために児童労働は法で禁止されているのにも関わらず、市場からの需要尽きません。
児童労働の問題点
児童労働は幼い子どもたちに身体的、社会的、精神的、道徳的に悪影響を与えます。
「教育機会の欠如」
児童労働に従事している子どもたちは、教育の機会が奪われています。例えば、長時間の労働に疲れ果てて学校に行けない子、教育費がない子、学校に行く暇なく働いている子などがいます。
またこれらの子どもたちは、限られた職業にしか就くことができない可能性が高いため貧困から抜け出す確率が低くなります。これによって、児童労働に従事した子どもたちは大人になっても貧困の連鎖を断ち切ることが難しい状況に追い込まれます。
「身体的な被害」
一般的に児童労働は、虐待、怪我、疲労、栄養失調や有害な化学物質に晒されるなどの子どもたちの体を蝕みます。例えば、鉱山で働く子どもは十分な装備なしに有害な化学物質や爆発物を使用したり、鉱山の崩壊の危険にさらされたりしています。
「精神的な被害」
子どもたちは強い孤立感や抑うつ感を経験し、大人になっても健全な感情を育み続けることができないことが多くあります。またこれらの強いストレスが身体に影響を与える場合もあります。実際に、児童労働に従事する子どもたちは、自然に遊ばせて成長した子どもよりも身体が小さいことが多いことが分かっています。
「道徳的な被害」
児童労働は子どもの社会性や道徳的な成長に悪影響を与えます。幼少期の人との関わりは、社会性の成長においてに非常に大切です。しかし、児童労働に従事する子どもは、同年代の子どもたちと遊ぶことや家族と過ごす時間が十分に取れません。そのため彼らは、人間関係を良好に築くことが難しく、不安定な大人へと成長する場合があります。
また危険な労働環境は、暴力に対する認知を歪めてしまったり、違法ドラックに助けを求めてしまう子どももいます。
私たちに何ができるのか
身に覚えがなくても日本に住む私たちが日常的に消費するものは、児童労働によって支えられている場合があります。
というのも、商品や製品が店頭に並ぶまでのサプライチェーン(調達、製造、販売、消費までの一連の流れ)において児童労働が関わっているリスクが非常に高いからです。
衣服に使用されるコットン、クッキーに使用される砂糖、携帯電話に使用されるレアメタル、コーヒー豆や石炭など、挙げればキリがないほど多くの原材料の採取などに児童労働は関わっています。
言ってしまえば、もし私たちが使う全ての商品に「児童労働の手を借りていないか?」を調べ上げることは、非常に難しいということです。
また、このように挙げればキリがないほど多くの商品が児童労働によって支えられていることを知ってしまうと、私たちは何から始めればいいのか、途方にくれてしまいます。
そこで、P.J. Tobiaが紹介している私たちができる簡単で実践的な取り組みをシェアしたいと思います。
たった5つのステップを踏むだけで「あなたができること」が見えてくるでしょう!
[STEP1 ]
「あなたが普段からよく使っている商品を一つ選びましょう」
このとき選ぶ商品はあなたが月に数回使うものなどで大丈夫です。
例えば、よくコーヒーを飲む方はコーヒー豆、あなたのお気に入りの洋服など。
[STEP2 ]
「その選んだ商品のサプライチェーンについて調べてみましょう」
これにはたくさんの方法がありますが、以下を参考にしてみてください。
- アメリカ労働局が作成した児童労働で生産された製品リスト(p.20~)を使い、選んだ商品に使用されている原材料が載っていないか確認する。(英語のみ)
- 児童労働撤廃に取り組むNPO、NGO団体のサイトを活用し、選んだ商品の原材料の問題などを調べる。例えば、『児童労働白書2020, p.13~』などの資料を見てみてください。
- 国際労働機関(ILO)はあなたが選んだ商品についての研究や報告書を作成しているかもしれません。サイトを使い、その商品に関係する問題がないか確認してみましょう。
- インターネットを使ってその商品を検索してみる。
[STEP3 ]
「サプライチェーンで働いている人たちについて学びましょう」
以下の質問の答えを見つけてみましょう。
- 「なぜその子どもたちはそこで働いているのか」
- 「彼らはどんな生活を送っているのか」
- 「彼らはどこから来たのか」
- 「あなたがその商品を買うことで彼らにどのような影響があるのか」
[STEP4 ]
「その商品の産業について学びましょう」
以下の質問の答えを見つけてみましょう。
- 「なぜその産業が児童労働に依存しているのか」
- 「児童労働に変わる労働力はないのか」
- 「あなたが支援することで、彼らの給料にどのような変化が生まれ、どのような生活を送ることができるようになるのか」
- 「あなたの住んでいると地域とその産業に関わりがないか」
[STEP5 ]
「”あなたができること”を考えましょう」
- 学習:2番で紹介したサイトなどに、私たちができる取り組みがたくさん掲載されているのでチェックしてみましょう。
- 参加:児童労働の撤廃に取り組んでいる活動家の人たちはあなたが参加するのを待っているかもしれません。
- 共有・発信:あなたが率先して周りの人を巻き込み、児童労働に対しての意識を高めることもできます。家族や友達、クラスメイトに話してみましょう。
児童労働のようなグローバル規模の大きい問題を解決するためには、私たちは「私なら何ができるか」という小さな点を広げていくことがとても大切です。
私たち一人一人の声には大きな意味があります。
児童労働をなくす最も効果的な方法の一つは、グローバルなサプライチェーンの透明性を高めることです。
消費者が意識的に買い物をすれば、企業もサプライチェーンのあり方に関心を持ち、児童労働撤廃に向けて取り組む可能性が高くなります。
たった一つの商品に目を向けることから始めましょう!
あと3年で
国連が制定した持続可能な開発目標SDGsでは「2030年までに、地球の自然を守りながら、あらゆる場所であらゆる人たちが健康的で幸福に生きるための目標」が掲げられています。
そのSDGs目標8.7では、「児童労働の撲滅」が他の目標よりも5年早い2025年までに達成すべきゴールとされています。
2025年まであと3年を切りました。
私たちの目に見えない場所で、生きるために過酷な労働環境の中、長時間、低賃金または無給で働いている子どもたちがいます。
私たちがいま行動することで3年後の子どもたちの未来は大きく変化します。
児童労働のようなグローバル規模での問題を解決するためには、私たちは「私なら何ができるか」という小さな点からスタートすることが必要です。
今日あなたから、子どもたちが笑って暮らせる未来へ向けてその小さな点をつなげていきましょう。